野菜を育てる喜びと難しさ、畑でやりがいと自信を取り戻す試み
私たちは、八王子ダルクに入所する依存症の人たちが社会に戻ることができるよう、回復のために設けたプログロムに手を加えるなどして試行錯誤を続けています。
その一つとして、昨秋、野菜作りに乗り出しました。八王子ダルクは、東京駅からJR中央線で西に約1時間離れた緑豊かな郊外にありますので、その自然を活かそうという試みです。
この思いを、地域で保護司も務める70代の男性教員が汲み取ってくれました。男性は薬物の所持、使用などの罪に問われ、服
役した人が地域でやり直すにはどういう支援が必要か模索する中で、私たちと出会ったのです。
男性から自身の畑で野菜を作ってはどうかという思いがけない提案がありました。やりがいを持たせ、自信を取り戻すきっかけにもなればというのです。
畑は、八王子の市街地にある私たちの活動拠点から西に車で約30分離れた恩方(おんがた)地区にあります。童謡「夕焼け小焼け」を作詞した中村雨紅(1897-1972)の生誕地として知られています。
話はトントンと進み、昨年11月、高く澄んだ青空が広がる中で私たちは田んぼ約800平方㍍にキャベツ、ホウレンソウ、多摩地域で広く栽培されている「のらぼう菜」などの種をまいたり、苗を植えました。どれも初心者が育てやすいようにと男性があらかじめ用意してくださったものです。
農の楽しさを知った私たちは今春、同じ畑にジャガイモとネギを植えました。梅雨の真っただ中の6月下旬に、入所者全員で泥と汗にまみれながら4時間かけてジャガイモを掘りました。約50㌔収穫できたことに、男性は「初めてにしてはよくできた」と喜んでくださいました。その後もトマトやキュウリ、ピーマンが、わずかながらも家計の足しになりました。草取りなど日常の手入れを怠らなければ良い作物ができると思っていましたが、猿にトウモロコシを食い荒らせれるという予想外の出来事に落ち込んだ事もありました。
野菜作りを始めてからまもなく1年を迎えます。育てることの喜びと同時に難しさも味わえたことが最大の「収穫」ではなかったかと振り返っています。
八王子ダルク 木村智洋
(山谷(やま)農場通信「ひびき」第80号 2020年9月25日 掲載)